「クラウド会計ソフトfreee」は、中小企業の経理作業を自動化し、バックオフィス業務の最適化と「働き方改革」を支援するソフトウェアです。
その開発を手掛け、freee株式会社を創業した佐々木さんに、
画期的なソフトの誕生の経緯、そして会社経営にかける思いをうかがいました。
Profile
一橋大学商学部卒。博報堂、CLSAキャピタルパートナーズ(未上場株投資ファンド)を経て、ALBERTにてCFO兼レコメンドエンジン開発責任者を務める。その後 Google に入社し、日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けマーケティングチームを統括。2012年7月freee株式会社設立。
クラウド会計ソフト「会計freee」で業務効率化
特長1 つい滞りがちな経理事務を簡単にできる
特長2 売上や経費、資金繰りも簡単にわかるように
特長3 個人事業主様は、確定申告まで自宅からこれ一つで完了
■経理業務を自動化し、イノベーションを
大学2年まで、入学後に始めたラクロス部と塾講師のアルバイトを掛け持ちし、将来のことは真面目に考えていませんでした。でも、大学3年のゼミで始めたデータサイエンスの勉強がとてもおもしろく、部活もバイトも辞めてベンチャー企業にインターンとしてもぐり込み、アンケート調査の分析などをさせてもらいました。今思うと、これが最初の転機でした。
大学卒業後はインターン先の最大の顧客だった博報堂に入社。しかし、2年ほどで辞めて投資ファンドに転職し、さらに約1年後にはベンチャー企業に転職してCFOを務めました。その1年後、2008年よりGoogleに勤め、中小企業向けネット広告の日本やアジア・パシフィックにおけるマーケティングを担当します。
この中小企業向けネット広告はとても意義のあるサービスだと思いました。大々的に広告を打つことができない中小企業でも、自社のサービスや商品を世界中に知らしめることができるのですから。しかし当時は、中小企業のテクノロジー活用は今ほど進んでおらず、特に広告という商品は全ての事業者が必要としているわけでもない。もっと経営の根幹に関わるテクノロジーであれば、より多くの需要を見込めるのではないか。そんなふうに考えた時、ベンチャー企業のCFOの経験がよみがえったんです。
そのベンチャー企業では、経理スタッフが一日中手作業でデータを入力していました。会計ソフトはありましたが、最終的に紙の帳簿を作らなくてはならないため、膨大な作業を減らすことができなかったんです。「経理全体を自動化するソフトがあればいいのに」と考えていたことを思い出し、会計ソフトをクラウドで提供するビジネスに思い至ったのです。
クラウド上のソフトならいつでも誰でも使うことができ、経理作業が自動化されれば中小企業はクリエイティブな仕事に費やす時間を増やすことができる。それは世の中にイノベーションを促し、多様なスモールビジネスの登場を後押しすることにつながる。私たちがそのソフトを作り、提供すれば、私たちは社会に変革を起こせる、ボーリングのセンターピンのような存在になれる。そうした期待を胸に、2012年にfreeeを創業しました。
■口コミで広がったfreee
「クラウド会計ソフトfreee(以下freee)」は共同創業者と自宅にこもり、10カ月ほどかけて完成させました。その過程でいろいろな人に試してもらいましたが、反応は芳しくなく、一時期は心が折れそうになったこともあります。ところが、freeeをインターネットにアップしてみたところ、ネット上でビジネスをするブロガーなどの方々に「どうしてこんな便利なツールがこれまでなかったんだ」と、好評価をいただいたんです。そこから口コミで一気に評判が広がりました。
中小企業向けの販売は、専門の営業部隊を組織し丁寧なプレゼンテーションを行ったほか、会計事務所を通してfreeeを薦めてもらうなどして、徐々に拡大していきました。今ではネットや電話の問い合わせに対応するサポートチーム、実際に訪問して大規模導入を支援するコンサルティング部隊などもそろえています。
■仕事で大切なのは、成長・意義・信頼
創業後の大きな転機といえば、freeeリリースの約1年後、社員が30人ほどに増えた時期ですね。それまでは手に取るように分かっていた社内の状況が、次第に把握できなくなってきたんです。そこで行ったのが「freeeの価値基準」の制定。私たちらしい考え方、判断の仕方について全社員に意見を出してもらい、約1年半かけて作りました。その後、この価値基準は社員の行動指針となり、社員同士で決めごとをする際の判断基準にもなっています。私は2016年に育児休暇を取りましたが、その時に問題なく会社が機能したのは、この価値基準の成果でもあります。作って本当に良かったですね。
私は過去に4回転職しましたが、会社を辞めようかと考えるきっかけになったのが、「自分が成長できていない」「何のために働いているのか分からない」「上司が信頼できない」などと感じたことでした。だから会社は社員にとって、成長の場であり、働く意義を感じる場であり、信頼できる仲間がいる場でなくてはならないと思っています。採用活動では自らの力でぐんぐん成長していきそうな人を厳選していますが、それは迎え入れる私たちも新人に刺激を受けて成長したいという思いがあるから。そしてそのためにも、価値基準の一つに「あえて、共有する」とあるように、社内では社員同士で相手の仕事への評価をフィードバックし合うことを重視しています。
日本にまだないソフトを提供して中小企業の皆さんに元気になっていただくことには大きな意義があると確信しています。それをビジネスとして展開することで、私たちも成長したいと思っているのです。
■これからも社員と共に
freeeの利用がもっと広がれば、やがて複数の会社同士がfreee上で融資や取引ができるようになります。AIを活用して企業の信用度合いを数値化したり、簡易な経営コンサルティングをしたりすることも可能になるでしょう。成長の余地は、まだまだ広がっています。つまり、私たちもまだ成長していけるということです。これからも、社員と共に歩んでいきたいと思っています。
■既存の価値観をもっと疑おう
日本の教育について思うのは、まず何でも「東大が一番」というような、見えないヒエラルキーを疑う必要があるだろうということ。海外の優秀な学生は、卒業時にすでに日本の社会人4年目と同等の力があるといわれています。また、日本ではコンピュータサイエンスの授業を受ける学生数も増えていませんよね。このままでは将来、確実に海外に大きな差をつけられます。既存の価値観をもっと疑い、変えていくべきでしょう。
また、学習におけるテクノロジーの活用ももっと進むといいと思います。テクノロジーは今後ますます進展し、さらに日常生活にとって身近なものになるはずです。そうなると、漢字や計算の練習の仕方も大きく変わるでしょう。海外ではすでに試験場に関数電卓が用意されているのが当たり前になっています。私は、そろそろ試験でインターネットを使用可能にしてもいいんじゃないかと思っています。