関塾ひらく「インタビュー」 各界で活躍する著名人に教育や経営をテーマとしたお話を伺いました。
 (財)出版文化産業振興財団理事長
(財)文字・活字文化推進機構理事長 肥田美代子氏
教育のベースは言語力ことばの輝く国を目指して
 
Profile
1941年大阪生まれ。大手前高校を経て童話作家。
薬剤師。日本児童文学者協会会員。参議院議員、衆議院議員を経て、現職。15 年間の国会議員時代に「国立国会図書館国際子ども図書館」の設立、「子どもゆめ基金」の創設、「子どもの読書活動推進法」「文字・活字文化振興法」の制定、「2000年子ども読書年国会決議」「2010 年国民読書年国会決議」の採択に中心的な役割を果たす。2005年政界引退。2007 年10 月、(財)文字・活字文化推進機構設立。童話作品は、『白いおかあさん』(偕成社)『子ども国会』『わたしのフレッシュ国会日記』『ゆずちゃん』(ポプラ社)『ふしぎなおきゃく』(ひさかたチャイルド)など多数。



薬剤師、童話作家、国会議員、財団理事長というキャリアのなかで、長年子どものための取り組みを行ってきた肥田美代子氏に、日本の教育の問題点やこれからの教育のあり方について伺いました。

子どもに冷たい国


私はもともと薬局を営みながら、童話を創作していました。師匠について学び、3人の子どもたちに自分の書いた童話を読み聞かせていました。書き始めて約10年経った頃、ようやく出版できるようになりました。
参議院議員に初当選したのが1989年。この頃国際社会では、子どもについて様々な話し合いが行われていました。1989年には、子どもの意見表明権などをうたった「子どもの権利条約」が国連で採択され、翌1990年には「子どものための世界サミット」が開催されました。世界159カ国の首脳が集まって子どものことが政治の最優先課題として話し合われたのです。
日本における条約批准を機に「子ども省」の創設を国会で提案しました。縦割り行政を廃し、本当に子どものためになる政策を実現するためです。しかし、与党の理解を得られず、残念ながら実現はしませんでした。
私が政治家になって痛感したのが、日本が子どものことを大切に考えていない国である、ということでした。国会で子どものための政策がほとんど議論されない状態に、冷たさを感じたのです。なかには「子どもには選挙権がないから選挙対策にならないよ」と私に「忠告」する議員までいました。弱者に基準を置くことは、政治の基本であるはずなのに。


子どものためにできること

とはいえ、子どものために何ができるかを真剣に考える議員の方々も、少なからずいらっしゃいました。私はそういった方々と党派を超えて連携し、様々な活動を展開しました。
例えば、子どもの意見表明権を実現するための、「子ども国会」の開催です。
1997年の夏、国会の参議院本会議場に参議院議員の人数と同じ252人の小中学生が集まり、環境や人権などのテーマを議論しました。子どもたちは、原稿がなくてもしっかり答弁し、また議長を選ぶ際には何人も立候補して、じゃんけんで決めていました。この姿には、本当に感動したものです。
そして、「国際子ども図書館」の開設にも取り組みました。国立国会図書館には、18歳未満の子どもが入館できません。そこで、子どもたちに本に親しんでもらうために、子どもたちに読んでもらう本を集めた図書館をつくりたい、と考えました。
取り組み始めて3年後の2000年、予想以上に早く開設できました。
法律の制定では、2001年には「子どもの読書活動推進法」、2005年には「文字・活字文化振興法」を、超党派の議員の皆様と協力して制定することができました。
しかし法律は、運用されなければ次第に存在自体が忘れ去られてしまいます。そこで私は議員を引退したあと、この2つの法律の具体化のために、(財)文字・活字文化推進機構を設立。新聞・出版業界だけでなく、さまざまな企業や団体から協賛をいただき、日本人の総合的な言語力強化に取り組んでいます。


国づくりの基本は言語力の育成

昨今、日本人の言葉によるコミュニケーション能力の低下は、大きな問題となっています。企業の経営者の方々に伺うと、社員同士の交流が少なく、顧客に対しても言葉を駆使して安心感を与えることができない社員が多い、といった話をよく耳にします。医師会の方に伺っても、患者を安心させるような言葉を投げかけられる医師が少なくなったと言います。子どもたちも言葉によるコミュニケーション能力が低下し、キレる子どもが増加しています。
国づくりの基本は言語力の育成であると言っても、過言ではありません。
OECDの2006年度学習到達度調査(PISA)で、日本の子どもたちの読解力が、世界15位に落ちたことが分かりました。1位のフィンランドでは読書教育が盛んで、子どもとコミュニケーションを取りながら教える形をとっています。この結果を受けて、ようやく日本の教育に変革が必要だと考えられるようになりました。
昨年発表された新しい学習指導要領では、「言語活動の充実」がうたわれています。今までそういった視点で教育が行われなかったため、現場は大きく混乱することが予想されます。そこで、当財団では各地で言語力向上のためのワークショップを開催し、授業のあり方について啓蒙活動を展開しています。
また当財団では今年から、「言語力検定」を実施します。これは、読み、書き、考え、伝える力を測定するもので、約4割が記述式問題となっています。OECDのPISAをモデルにつくられ、レベル別に級が分かれているため、学校教育だけでなく社員教育のツールとしても有効だと考えています。


ことばの輝く国へ

言語力を身に付ける最も有効な手段は、読書です。「読書は勉強の邪魔になる」という人がいますが、文部科学省の全国一斉学力テストでも読書量と成績の関連性が裏付けられています。また、他の人の言葉に対する感覚も鋭くなり、ちゃんと人の話を聞く子どもになります。
読書教育を充実させるには、学校図書館の充実が必要です。1953年に「学校図書館法」が制定され、すべての学校に図書館の設置が義務づけられましたが、長らく司書教諭の配置は義務づけられませんでした。学校図書館は形骸化し、物置小屋同然の学校もありました。1997年に改正され、ようやく司書教諭の配置が義務づけられましたが、まだまだ十分に整備されているとはいえません。そこで当財団では、学校図書館の整備充実を促す活動も行っています。
しかし私は、子どものためにもっとも大切なのは、家庭養育だと考えています。親は子どもがまだ言葉を話せないうちから、声をかけたり絵本を読み聞かせたりして、言葉のシャワーを浴びせてほしいと思います。また、子どもが読書を好きになる環境を整えることが大切です。本がたくさんあり、親がすすんで本を読む家の子どもは、自分から読書に向かうものです。
言語力は人が人として生きるために、欠かせないものです。「日本をことばの輝く国にする」、これこそが、私が実現したいことなのです。

詰め込みでなくコミュニケーションを

日本の教育は、長らく暗記に重点が置かれていました。これからの教育は、言語力やコミュニケーション能力の育成に重点が置かれていくでしょう。
関塾がフランチャイズで展開しているのは、勉強だけでなくオーナーの皆様の人生経験を子どもたちに伝えてほしい、子どもたちに生きる力を身に付けさせてほしい、という想いがあるからだとお聞きしています。これからの時代、そういったコミュニケーション重視の姿勢は、必ず脚光を浴びると思います。
オーナーの皆様には、ぜひ子どもたちに読書をすすめ、本物の言語力を育てていただきたいと思います。こうして本物の学力を身に付けた子どもたちは、きっと将来、世界のどこへ行っても活躍できるような大人になってくれるでしょう。

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