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“体験”による“気づき”から人と違う価値を作り出して発信しよう |
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Profile
1958年北海道釧路市生まれ。東京で芝居をやりたいと明治大学文学部(演劇学専攻)へ進学したが、実際には早稲田大学演劇研究会にて演劇三昧の日々。大学卒業後、マネキン人形メーカーにてヴィジュアルプレゼンテーションを行う。その後ニューヨーク大学にて映画製作の勉学。帰国後フリーパレットを設立し、ウインドーディスプレイなどに従事。1992年、株式会社ラーソン・ジャパン取締役就任後、各種集客施設(水族館、博物館、テーマパーク、レストラン、ショップ等)の企画に演劇の手法を取り入れて成功。“体験”を売るという「エクスペリエンス・マーケティング」の考え方で集客施設や会社のコンサルティングを行う。現在、フリーパレット集客施設研究所主宰。
デフレ状況の今、悩める経営者たちに集客のノウハウを伝授する経営コンサルタント 藤村正宏氏。
「モノ」ではなく「体験」を売るというマーケティング論「エクスペリエンス・マーケティング」(エクスマ)を裏付ける生き様や、塾経営にも実践できるノウハウについてお話しいただきました。
父のように人と違うことをしたい
水産業や炭坑業が盛んな北海道釧路市で生まれ育った私は、通称「炭坑住宅」に住んでいました。
ここに住む男性はみんな炭坑で働いていましたが、私は父を見て「みんなのお父さんとは何か違う」と子どもながらに感じていました。友人の父親は炭坑作業員で24時間3交替制勤務なのに対し、父は毎朝同じ時間に出社。夕方には、炭で真っ黒になることもなく、スーツ姿で戻ってきました。
実は父の仕事はグラフィックデザイナー。広告やジオラマなど、炭坑に関わるデザイン関連の仕事を一手に引き受けていたようです。父の職場を訪れたとき、海が見える広い事務所を一人で占領し、何とも楽しそうに仕事をしている姿を見て、「早く大人になりたい」と憧れたのを覚えています。今思えば、このときに「人と違うことの価値」や「仕事を楽しむ」ということを知ったんだと思います。
その後も、父の存在は私に大きな影響を与えました。
例えば、自由研究では、絵画教室を開いていた父の影響もあり、小学生ながら画家のユトリロについて発表し、驚かせたことがあります。昆虫採集の代わりに果物の種ばかりを集めて提出したこともあります。確か「視点がおもしろい」と賞をいただきました。人とは違うことをしたいと常に考えていましたね。
また、小学3年生の夏休みに親戚の牧場へ遊びに行ったとき、衝撃的な事件が起こりました。父が、庭にいるニワトリを食べるので私に絞めろというのです。
「人間が生きるためには必要なこと。『いただきます』は『あなたの命をいただきます』という意味なんだよ」という父の言葉に、泣きながら手を下しました。当時はショックしかありませんでしたが、今は体験を通じて人間の本質的なことを教えてくれた父に感謝しています。
「人と違うことをする」「何事も体験する」をモットーにしている私の原点であることは間違いありません。
「明日死ぬかもしれない」事故が生き方を変えた
中学校と高校は、それぞれ進学校に進みましたが、在学中はどちらかというと問題児で、あまり勉強しない生徒でしたね。
転機が訪れたのは高校3年の夏。校則違反のバイクに乗っていて事故に遭ったのです。入院中、初めて自分の人生について考えました。「もし数秒ずれていたら事故に遭わなかったかもしれないけど、死んでいたかもしれない。人間は明日死ぬかも知れないんだ」
そう思うと、好きなことをして生きたいと強く感じたのです。美術、音楽、ファッション……好きなことを模索するうちに、すべて備えている“演劇”に行き着きました。漠然としていた卒業後の進路が途端に明確になり、必死に勉強しましたよ。そして無事に明治大学の文学部演劇学専攻に入学。縁あって早稲田大学の演劇研究会に入部し、演劇に没頭する日々を送りました。後に仕事に生かせるとは考えてもみませんでしたけどね(笑)。
実はマーケティングと演劇は共通する部分がたくさんあるんです。
まず脚本力。ビジネスには、最終的にお客様に買っていただく、店のファンを増やすなどの成功像が必ずあります。最終イメージを想像し、そこに至るまでのシナリオを作ることが第一歩です。
次に演出力。売る商品は同じなのに、なぜ営業マンによって業績に差が生じるのか? それは売り方、伝え方に差があるからです。お客様の心をつかめるかどうかは、言葉の表現一つで変わります。
最後に共同作業であること。演劇は、一つの演目をみんなで創りあげます。ビジネスも同様で、プロジェクトを一人で成功させることはできません。
成功までのシナリオを作り、スタッフ全員で効果的な営業活動を行う。これは、塾の経営にも通ずるのではないでしょうか。
体験から得た気づきは資産
昨今、世の中には物があふれています。どんなに良い商品でも、並べるだけでは売れない時代です。
大切なのは発信者が付加価値を作り、お客様へ最大限伝えること。それが「モノ」ではなく「体験」を売るというエクスマの考え方です。この発想自体、(株)ラーソン・ジャパン取締役時代の“経験”から生まれました。
大学卒業後は、未経験ながらマネキン人形メーカーでディスプレイデザイナーを務めました。その後、ニューヨーク大学進学を経て、フリーパレットを設立。ウィンドウディスプレイに従事する中、懇意にしていただいていた(株)ラーソン・ジャパン社長から、事業拡大にあたり取締役就任を依頼されました。社員も一緒に入社することを条件に引き受け、テーマパークやレストランなど、各種集客施設の企画設計を手掛けるようになりました。
しかしあるとき、料理、サービス、立地、価格、どれにおいても最高条件のレストランを作ったにも関わらず、一向に売上が伸びないという状況に陥ったのです。「良い商品を売れば売れる」という概念を覆されると同時に、「価値をお客様に伝えられなければ、商品が存在しないのと同じ」と気づかされた出来事でした。
その後何度も実験を繰り返し、独学でマーケティングを研究しました。売れるPOP やディスプレイなどは、すべて現場で実践して学んだのです。
現在、その経験を書籍や講演を通して経営者の皆さんにお伝えしています。その結果、コンサルティングしている約400社のうち、約7割の企業が、不況下にありながら利益を上げています。
もちろん、教わるだけでは何も変わりません。皆さん、一歩を踏み出されたからこそ好転したのです。たとえ失敗しても、自身の体験から得た気づきは必ず資産になります。塾頭の皆さんも「まず行動」を実践してみてください。
個性的な子どもたちを育ててほしい
私は、ビジネスの成功とは、利益と人の幸せのバランスが取れている状態だと考えています。つまり、自分の利益だけではなく、社会全体の幸せを考えるべきということです。
塾業界も同様です。子どもは希望そのもの。将来の素晴らしい社会をつくってくれるんですから。そのためには、私達大人が素晴らしい社会をつくる責任があります。
塾頭の皆さんも、子どもたちを幸せにするための塾づくりなら、どんどん“個”を出していくべきだと思いますよ。“個”とは信念。自分の信じたことを、恐れず実行してほしいのです。そして、「一人一人に違う価値があることが素晴らしい」という環境をつくり、たくさんの個性的な子どもを育ててほしいと思います。
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