関塾ひらく「インタビュー」 各界で活躍する著名人に教育や経営をテーマとしたお話を伺いました。
加賀屋 女将 小田 真弓氏
"正確に"お客様のお役に立ち感激と満足感を引き出す
 
Profile
1938年東京都生まれ。立教大学在学中に所属していたホテル研究会で、加賀屋の現会長である小田禎彦に出会う。大学卒業後すぐに結婚、和倉温泉「加賀屋」に嫁ぎ、二代目女将・小田孝に加賀屋流のサービス、おもてなしの作法を叩き込まれる。
1981年に「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で初めて総合1位に輝いて以来、33年間連続でトップを守り続けている。
石川県・能登半島に、明治39年の創業から100余年の時を刻む老舗旅館「加賀屋」。
1981年に「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で初めて総合1位となって以来、33年間連続でトップに輝き続けています。
150人近い客室係を擁しながら、隅々まで行き届いたおもてなしを実現する“加賀屋の心”とはどのように守り育てられてきたのか。
三代目女将・小田真弓さんにお話をお聞きしました


厳しく愛情深く育ててくれた先代女将


旅館のことは何一つ知らないまま加賀屋に嫁いでから、気づけばもう50年。嫁いで間もない頃は、玄関掃除やお客様の靴磨きに始まり、先代女将である義母にくっついて旅館のイロハを覚えていきました。「自分の大切な人がいらっしゃる時には、お部屋をきれいにして、良い器においしいお菓子を出すでしょう。それと同じ気持ちでやりなさい」と教わりました。義母は多くは語らない人でしたから、実際に見て聞いて、体験して体で覚えるのです。特にお掃除には
厳しくて、大掃除なんて大変。ちょっと疲れて手を抜くと、ちょうど手を抜いたところだけ見て「あとここだけね」なんて言われるんです(笑)。
義母は、すべての客室に足を運び畳に膝をついて一人ひとりにご挨拶回りをしていました。驚いたのは、この頭を下げてひと言二言交わすわずかな時間で、卓上のわずかな汚れ、床の間の生け花の向きや鮮度まで、部屋の様子を捉えること。その丁寧で無駄のない、お客様に対する細やかさには目を見張るばかりでした。
義母自身も普通の家庭から嫁いできて、失敗を繰り返しながら「日本一の旅館にするんだ」という思いで今の加賀屋の基礎を築き上げました。厳しいけれど、本当に愛情深い人でしたね。それは客室係に対しても同じで、厳しく叱る分、良いことはとことん誉めます。そして、社員の結婚や子どもの進級には贈り物をし、不幸があれば共に涙する。まるで親のように接していました。だからこそ先代の頃から30年、40年続けて働いてくれる人もいます。義母が叩き込んでくれた“加賀屋の心”と共に、そんな社員たちもまた宝物です。


瞬時にご要望を捉え万全の姿勢でお応えする

サービスの本質は、正確性とホスピタリティだと考えています。つまり、お客様の立場に立ち、お客様が望まれることを理解して“正確に”お役に立つことで、“感激と満足感”を引き出すのです。
重要なのは会話の中からお客様の情報を探ること。記念日やお誕生日、「妻への恩返し」など、ふとしたひと言からお客様が加賀屋にいらっしゃった背景を読み取らなければなりません。そしてその情報をほかの係と共有することで、お祝いのお料理や記念品をご用意することが
できます。可能な限り、お客様に「できません」を言わないのも加賀屋の流儀。十人十色のご要望にお応えするには、この報・連・相も大切だということですね。こうしたおもてなしによって、「来てよかった」と満足してお帰りいただくことが私たちの喜びでもあるのです。
また、お客様のご要望を敏感に捉えるには、自分磨きが必要です。20代、30代、40代とその年代だからこそできることがあります。年をとっても自分を磨き続けることで、それを見て若手社員が育つという良い循環が生まれると思います。私自身も日ごろニュースをはじめとして情
報を取り入れ、常に自分自身を刺激し磨きあげる努力をしています。例えば、若い人たちの考え方や関心事を知ることは、同年代の社員の気持ちに寄り添う上で大切ですから。
どのような仕事にも異なる苦労があるかと思いますが、旅館にも塾にも欠かせないのは、やはり“相手の立場に立つこと”。生徒・保護者・講師の皆さんの気持ちに寄り添うことではないでしょうか。


社員は“家族” 笑顔で働いてほしい

先代の頃から増改築を重ねた加賀屋は、大型化し、多くの客室係が在籍しています。代が変わっても加賀屋の流儀は変わりませんし、社員はご縁があって一緒に働くことになった“家族”だと思っています。少しでも長く働いてもらえるよう、体調は悪くないか、変わったところはないかと常に目を配っています。一方で、人も働き方も時代と共に変化しますから、新しい挑戦も必要です。
加賀屋のモットーは「笑顔で気働き」。加賀屋では、お客様のお出迎えからお見送りまでをできる限り一人の客室係が担当します。ご朝食の準備に追われる早朝からご夕食の片付けが終わる夜遅くまで、仕事量は膨大です。彼女たちにはきれいな笑顔でいてほしいけれども、働き通しで疲れていては笑顔は生まれません。少しでも体を休め、より質の高いおもてなしをしてもらうために始めたのが、新人が客室係をサポートする「もてなし係」という仕組みです。
12時から15時まで、お客様をお出迎えしてお部屋にご案内したり、お菓子をお出ししたり、接客を担当します。客室係はこの間に休憩を取ることができるのです。
また、客室係の多くが子を持つ母です。安心して働いてもらうため、母子寮と保育園を兼ねた「カンガルーハウス」を設立しました。「もてなし係」が接客をしてくれる休憩時間に、寮へ帰って子どもと一緒に昼食を食べることもできる。こうした仕組みを整えることで、社員が働きやすい環境づくりをしてきました。


個々の長所を見出しきちんと評価する

採用の基準は、相手の目を見て話し聞くことができるか。シンプルですが、“相手の立場に立つこと”を重んじる加賀屋の心にも通じると考えています。
客室係にはそれぞれ長所・短所があり、得手・不得手があります。お客様に合わせて担当を決めるため、私も現場に立ち働く姿をよくよく見て、個々の特長を把握するよう心掛けています。自然な心遣いとは教えられて身に付くものではなく、体で覚えるもの。長所や美点を見出したらとにかく誉めて伸ばします。時には大げさなほど(笑)。
大切なのはまめに言葉を掛けること、評価すべきところは言葉とお手当などできちんと示すことです-。逆に間違ったことがあれば、自分の目で確かめたことをその場で注意し、人づてに聞いたことでは叱らないと決めています。
お客様からいただくクレームのうちで多いのが、実は新人よりも中堅社員に対するクレーム。というのも、ちょうどお客様に慣れてきたころが、クレームにつながるミスをしてしまいがちだからです。ただしそうさせてしまったのは私たちの責任。こうしたミスを防ぐため、入社年数に合わせた研修も行っています。


加賀屋のおもてなしを世界のお客様に

近年は、海外からのお客様も増えています。2015年春には、東京?金沢間に北陸新幹線が開通しますので、国内はもちろん、海外からもたくさんの方にお越しいただきたいですね。和倉温泉には「あえの風」「虹と海」、金沢には「金沢茶屋」と加賀屋が経営する旅館が合わせて4館ありますが、今後は個々の特長をさらに打ち出していく必要があります。その中で中心である加賀屋は、伝統や和を感じていただける空間と細やかでさりげないおもてなしで、世界に受け入れられる旅館づくりに努めていきます。そして、先代女将をはじめ代々の客室係が連綿と受け継ぎ、守ってきた加賀屋らしさを貫きながら、新しい挑戦を続けていきたいですね。

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