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企業のあり方と「楽しむ」教育 |
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Profile
昭和9年生まれ。
昭和32年3月東京大学法学部卒業。
同年、通商産業省入省。 平成3年、同省退官。
のち、日本興行銀行顧問、商工中央金庫理事長を経て、現職に至る。
商工中央金庫顧問、株式会社商船三井取締役、HOYA株式会社取締役、株式会社東京ドーム監査役なども兼任。
日本におけるコンピュータの黎明期から、情報産業の振興に携わってこられた財団法人日本情報処理開発協会会長
児玉幸治氏。長年にわたって積み上げられた経験から、企業姿勢のあり方をはじめ、日本の未来を担う子供達にとって、必要な教育とは何かをお伺いしました。 |
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日本の経済活動や消費活動において、今や重要な役割を果たす情報技術。時代とともに進化していく中で、ソフトウェアなどの技術やサービスに対する価値基準、個人情報の保護といった、目に見えない事柄が価値を持つようになってきました。それらを支える、責任感や倫理観を培うのは教育の役割。今後も変化し続ける情報化社会を、より良い方向へ導くためにも、「人間教育」がますます重要になってくると言えます。
日本の情報産業に貢献
当協会が設立されたのは1967年です。当時、アメリカにはIBMなどの大きなコンピュータ会社はありましたが、日本においての情報産業は、電電公社(現NTT)の電話の交換機が主力でした。70年代頃から国内の電機メーカーが技術開発を行った、大型のコンピュータが登場しはじめました。国産コンピュータの信頼性の高さをユーザーに理解していただくために、その使い勝手の良さと信頼性を示し、普及させていくことが当協会の目的でした。
さらに時代が進むと、情報産業はどんどん進歩し、どんどん変化してきました。70年代頃はハードウェア、ソフトウェアの両方が一緒になって販売されていましたが、情報産業の成長とともにソフトウェア産業も成長しました。そのため、それぞれの商品価値は単独で評価する、という考えに変わってきました。
また、実際にソフトウェアを購入し、使ってみて不具合が生じた際、アフターサービスの方法や責任の所在は、どうあるべきかという問題が起こります。そこで、当協会はそれまで役所が行ってきた、制度やルールをどう変えていくべきか、という事にも取り組んできたわけです。
さらにインターネットの時代になって、インターネットを使ったビジネスがどんどん出現すると、電子商取引が行われるようになりました。相手の顔も見ないでビジネスをするわけですから、きちんとした制度を設けて安心して商売ができる仕組みを作っていかなくてはなりません。
そこで、電子商取引に関するルールづくりが必要となり、電子商取引推進協議会を設立。ネットワークを運営している人、インターネットを使ってビジネスしている人たちに集まってもらい、様々な制度をどう変えていけば、インターネット上でのビジネスがうまくいくか、ということを長い間検討し、各方面に提言してきました。
そのように、日本におけるコンピュータの変遷とともに、当協会が取り組む内容も変わってきて、現在は、経済産業省をはじめ国の情報化政策と連携し、コンピュータのハードとソフトに関わる産業のサポートをはじめ、情報提供、インターネットを通じた商取引の普及促進などを行っています。事業の実施にあたっては、政府や、業界団体、企業および大学・研究機関など、幅広い分野と協力しあい、調査・研究に役立てています。
私自身は以前、通商産業省に務め、1975年頃から情報処理振興課長としてソフトウェアの産業を振興するのを目的とした課で、ソフトウェアの法的な保護の整備等に携わってきました。ソフトウェアの権利の保護制度は何もなかった時代でして、ソフトの中にあるものの考え方をどう保護するかといったテーマに取り組んできました。情報産業の中でハードウェアの世界、ネットワークの世界でコンテンツやサービスを提供しながら、ソフトの部分を充実させていくよう務めてきました。当時の経歴を買っていただき、当協会の会長に就かせていただくことになりました。
プライバシーマークの推進
現在、インターネットの普及とともに、個人情報がネットワーク上でやり取りされ、コンピュータで大量に処理されるようになっています。そんな現状から、個人情報保護が強く求められるようになってきました。一昨年からはじまった「個人情報の保護に関する法律」の全面施行に伴い、プライバシーマークという制度が大きな意味を持つようになり、当協会がその制度の運営を担当しています。基本的なルールやシステム、物の考え方は我々が整理したものを提供しますが、マーク取得のための審査は、かなりの部分を外部機関に委任しています。一部は全国学習塾協会にも審査をお願いしています。
塾で預かる子供やご家庭の情報が簡単に流出してしまっては、保護者の方々も不安に思われるので、学習塾は、顧客の情報を守ろうという意識が、非常に強いと思います。
企業の社会的な責任
組織の中で長年に渡って、情報産業の法体系の整備や、個人情報の保護などに携わってきたこともあり、企業のもつ、社会的責任の大切さを思います。
最近、企業が問題を起こし、社会的な問題になったりしています。昔から、コーポレート・ソーシャル・リスポンシビリティ(企業の社会的責任)という言葉は、企業にとって大切なことでした。
企業が、社会的責任を果たしていくためには、取引先や地域、環境などに対して十分に、注意を払っていかなくてはいけないと思います。常に周りに対して、意識を働かせることが重要です。ところが、企業内部だけで色々な問題を処理しようとすると、結果的に、大きなダメージを引き起こしてしまうと思います。これは、企業風土にも関わってくるのではないでしょうか。社員が、企業の理念や、企業が果たさなくてはならない責任、コーポレイト・アイデンティティをきちんと理解する。一方、経営者は社員に対して、事業を続けていくうえで、何が大切かを繰り返し伝達していくことが大切だと思います。
もう一つ、社員のアイデアや創造性を上司が受け入れる、風通しのよさも大事だと思います。社内で率直に意見を述べられる、風土を培っていくことがとても重要です。それも表面上だけでなく、社員が実際にいいアイデアを出したら採用する、といったことを企業文化として持ったほうが、良いのではないかと思います。
勉強することを楽しむ教育
社会で活躍する人材の育成には、教育も深く関わっています。私が教育に携わっている方に望むことは、知識の詰め込みだけでなく、子供達自身が学ぶことを楽しめる教育です。
私は論語が好きでして、論語の中に「これを知るものはこれを好む者に如かず。これを好む者は、これを楽しむ者に如かず」という言葉があるんです。要するに、勉強が知るという行為だけの場合、知識の詰め込みになります。それよりも、好きで勉強する方がはるかに良く、ものごとを知って、好きになり、さらに、知ることが楽しくてしょうがないと思いながら勉強する。そのほうが、もっと良いという意味です。
最近は、マラソンや野球でも、「楽しみたい」と表現する人が多いでしょう。昔は「歯をくいしばって頑張ります」という人がほとんどでした。そういう意味で、現代の人達の考え方が、「楽しみたい」という風に、変わってきているように思います。
自分が子供の頃を、振り返ってみると、本当に好きでやった勉強は、時間が経つことを忘れたくらいです。知ることを楽しむと、その楽しさの先に、また新しい種があると思って、どんどん勉強を進められるものです。
もちろん進学指導においては、どんどんと知識を詰め込むことも、重要なことです。その上で、子供にとって勉強が「好むもの」「楽しめるもの」というレベルまで導くことができれば、素晴らしいと思います。
子供全員がそうなることは、難しいですが、それぞれが自分の好きなものとして、勉強の中にテーマや課題を見つけ出せるようになれば理想的です。
最近、理科離れも言われていますが、実際に体験などを取り入れると、子供達もスムーズに理科に入り込んでいくことが、できると思います。
学習塾でも「知る」「好む」「楽しむ」という段階で、子供たちが「楽しむ」という教室になるような学習を、工夫してやっていただければ、世の中がもっと面白くなりますよ。カリキュラムの作り方、先生の対応など、楽しみに近づけるように、工夫していただきたいと思います。その方が、子供達にとっても幸せですし、日本の将来にとっても有意義になると思います。子供が勉強に楽しさを、見つけられるような教育を実践していただきたいですね。
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