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"ミッション"を掲げリスクを恐れず挑戦を続ける |
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Profile
1958年大阪府出まれ。
大阪大学経済学部卒業後、日産自動車入社。日産時代にUCLAビジネススクールに留学。帰国後は外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ常務を経て、( 株)アトラスの代表取締役として収益改善、(株)イオンフォレスト(THE BODY SHOP Japan)の代表取締役社長として売上倍増、スターバックスコーヒージャパン(株)のCEOとして業績向上を成し遂げた。現在はコンサルタントにとどまらず、次世代のリーダー育成にも力を注いでいる。
日産自動車からアメリカ留学を経てコンサルタントへ転身。
その後アトラス、ザ・ボディショップ、スターバックスと3社の社長を務め、いずれも大幅な業績回復を成し遂げた岩田松雄氏。
自らカリスマリーダーではないと断言する岩田氏に、社会や企業がいま本当に求める理想のリーダーとは何かを伺いました。。
ミッション=存在意義
三つの会社で社長を務めた経歴から、いかにも華々しい人生をイメージされます。でも私は、誰もが企業のトップとして思い描くような、いわゆるカリスマタイプのリーダーではありません。むしろ「俺についてこい」という強いリーダーではなく、ありのままの自分を大切にしてきた"庶民派リーダー"です。そんな私が、これまでリーダーとして心掛けてきたことは、常に自分の使命つまり"ミッション"を持ち続けることです。
会社におけるミッションとは、企業理念であり、何をもって社会に貢献できるかです。リーダーの役割は、ミッションを打ち出し、社員と共有すること。そして、会社の向かうべき方向を示すことです。また、個人においてもミッションは大切で、「好きなこと」「得意なこと」「人の役に立つこと」の三つが重なるところがヒントになります。
これまで私自身も、自分のミッションを進化させつつ、絶えず目前の課題に向かってコツコツと努力を続けてきました。その過程で、リーダーとしての自分なりの心構えやあり方を構築できたように思います。
こうしたことを初めに学んだのが、高校・大学時代の野球部での経験でした。
懸命に努力を続ければ必ず評価される
学校時代は、いわゆるリーダータイプの友人に対して劣等感を抱いている子どもだったと思います。高校生になってから本格的に始めた野球では、二年生になってもレギュラーにはなれず、下級生とともに練習に励む毎日でした。ところが新チーム結成のとき、下級生たちにキャプテンに推薦されたのです。また大学では、憧れのピッチャーになったものの試合で登板できずにいた私を、「岩田に投げさせてやってほしい」とチームメートが推してくれたこともありました。私を認めてくれた後輩や友人たちの思いがうれしかったですね。たとえ試合に出られなくても、あきらめずコツコツと努力していれば、必ず誰かが見てくれていると実感しました。またこうした経験が、リーダーは必ずしもカリスマ性を備えた強い存在である必要はないという考え方の基礎になっています。
ミッションへの思いが会社を動かす
大学卒業後は日産自動車に入社。日産では、たくさんの尊敬すべき上司や先輩に出会いましたが、ある上司との摩擦が原因で、ほとんど左遷に近い処遇を受けました。辛い時期ではありましたが、後に人生のターニングポイントとなるアメリカ留学を決意したのはこの頃です。
アメリカのUCLAビジネススクールに留学したのは2年間。多様な価値観に触れ、異文化の洗礼を受けました。そこで、現状にとらわれずリスクを恐れない欧米人の意識やチャレンジ精神を目の当たりにしたことが、帰国後の考え方に影響しています。
帰国して数年後、日産からコンサルティング会社に転職し、その後コカ・コーラを経て、アトラスで念願の社長に就任します。アトラスがタカラと合併した後、私はイオングループの3社から社長就任のオファーを受けました。でも私の中には、会社の規模や知名度ではなく、経営者としてやりがいを感じられる道を選びたいという思いがありました。そこで、3社中最も小さなザ・ボディショップの社長を選んだのです。
ザ・ボディショップで最初に考えたのは、会社を正しい方向に導くにはどうしたらいいか。なぜなら、業績だけでなく、社内の人間関係も良くなかったからです。社長就任までの2カ月間、創設者の経営理念を改めて読み解き、店舗に足を運んで社員の声を吸い上げました。そうすることで、会社のミッションを見つめ直したわけです。こうしてできたのが、ブランドや接客の原点に立ち返ろうと訴えかけた「社長就任挨拶七つのお願い」。挨拶の最中に何人かの女性社員が涙を流してくれたことをよく覚えています。
その後は、32ヶ月連続で予算を達成、店舗数は107店から175店に、売上は67億円から約140億円に、利益は約5倍に伸ばすことができました。そして4年が過ぎた頃、私はある種の達成感を感じ、次のステップへ進むことを決意。半年間の面接を経て、一ファンでもあったスターバックスCEOに就任しました。
スターバックスには、コーヒーで人々の心を豊かにする、というミッションが根付いています。これを、社長だから偉いという姿勢ではなく、"同じ目標に向かって頑張るチームメート"として現場のスタッフに話す。そして、お店に立つスタッフが心を込めてコーヒーを入れてくれているからこそ、スターバックスが成り立っていると伝えてきました。
このように、ザ・ボディショップやスターバックスで私が実践してきたのは、強いリーダーシップで社員を引っ張ることではありません。できる限り現場を訪れ、会社のミッションについて、お店のスタッフに語ることでした。彼らはもともと、会社の理念や仕事が好きで集まった人たち。私の言葉に応えてくれたのだと思います。
これらの経験から学んだことは二つ。一つは、社員にミッションなどを語りかけるときは、社員の視点に立ち、わかりやすく心からの言葉で語りかければ、届くということです。これが最も重要だと考えています。またもう一つは、社員や現場のスタッフの仕事への情熱がいかに大きいな力を持つかということ。個人の情熱、ミッションへの思いは時に会社を動かすのです。
時に原点に立ち返りミッションを進化させる
私は、経営のプロとしてコンサルタントを経験し、3つの会社で社長として会社のミッションを形にしてきました。そして、これらのミッションを進化させたのが、現在取り組んでいるリーダーシップ教育"エグゼクティブコーチング"です。
リーダーとはパワーを持つ存在。パワーがあるからこそ、人徳を兼ね備えているべきだと考えています。パワーを自分のためではなく、世の中に貢献するために使える、そんなリーダーを育てたいのです。具体的には、コンサルタントとコーチングの両方を行います。経営者に必要な二つの要素を教えることで、事業戦略だけでなく"人"としての成長をサポートし、人徳あるリーダーを育てたいと思っています。
関塾を経営するオーナーの皆さんにも、ミッションがあるはずです。ミッションを掲げ、時にはリスクを選んででも、チャレンジを続けてください。もし、本来のミッションを見失っているのなら、「なんのために塾を経営しているのか?」と自分自身に問い直し、原点に戻ってみてください。自分の仕事を愛していると言えるか。仕事への情熱や愛は、必ず子どもたちに伝わります。
そしてこれは現在、日本の教育現場が問い直すべき課題でもありますが、受験のためや利益だけを追求するのではなく、子どもたちが"人間成長"できる場であってほしいですね。 |
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