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自ら選んだ目標に向かい努力を続ける“動機”を追求 |
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Profile
1948年三重県出身。
京都大学法学部を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。生命保険協会財務企画専門委員会を設立、初代委員長として金融制度改革、保険業法の改定に尽力。その後、ロンドン現地法人社長や国際事業部長などを歴任し同社を退職。2005年東京大学総長室アドバイザー(非常勤)、2006年にネットライフ企画株式会社を設立し代表取締役社長に就任。2008年に生命保険業免許を取得し、ライフネット生命保険株式会社を開業。
60歳で戦後初の独立系生保、ライフネット生命を立ち上げた出口氏。
保険料半額、約款公開、保険料の内訳開示など、これまでの生命保険業界の常識を覆す取り組みが注目されています。
同社の成長の鍵を握る揺るぎない経営理念やビジョン、それを支える独自の哲学について伺いました。
自分は何がしたいのか理念を明確にする
ライフネット生命は、インターネットで保険商品を扱う、戦後初の独立系生命保険会社です。ゼロから立ち上げたのは、どこの生命保険会社もやったことのない新たな挑戦をするため。私たちが目指す会社のあり方、理念を突き詰めていった結果でした。会社経営にはこの理念を明確に持つことが重要です。その上で数字・ファクトをベースに、ロジックを積み上げてビジネスプランをつくらなければいけません。
ライフネット生命立ち上げの際、【世界経営計画のサブシステム】という独自の考え方で理念を固めていきました。これは、@世界をどのように理解し Aどこを変えたいか B自分は何を担当できるか、を考えること。
人は、会社や地域など周辺の世界を理解したとき、自分なりに世界を変えたい、つまり“世界を経営したい”と考えます。でも世界は簡単には変えられません。そこで、自分に何を受け持つことができるのかを考えてみます。この考え方は会社の理念だけでなく、働く意味や生きる意味も明確にしてくれます。ライフネット生命設立時も、まず生命保険業界という「世界」を、改めて理解することから始めたのです。そうして出た結論が、現在のライフネット生命のあり方につながる2つの思いでした。
一つは「若い人に赤ちゃんを産んでほしい」という思い。現在の1世帯当たりの平均所得を年代別に見ると、20〜30代の子育て世代が一番貧しいのです。これでは安心して子育てはできません。「若い人が赤ちゃんを産んで育てられないような社会が嫌だ、変えたい」と思ったんです。そのために自分に担当できることが「保険料を半額にする」でした。
もう一つは「生命保険会社への不信感を払拭したい」という思いでした。当時、保険金の不払い問題が発覚し、生命保険会社が厳しい非難を受けていたからです。これが、「正直に経営し、わかりやすく、安くて便利な保険商品・サービスを提供する」というマニフェストにつながっています。その背景にあったのが、大学卒業後に入社した日本生命での経験でした。日本生
命で得た生命保険・金融・経済に関する実に多くの知識と経験のすべてを注ぎ、生命保険をより良い道に導くような新しい会社をつくろうと考えたのです。
お客様の共感を得る“会社の姿勢”
今年の3月、生命保険会社としては異例のスピードで東証マザーズに上場。開業5年目で、14万件のご契約をいただいています(2012年9月末時点)。これはライフネット生命の「正直に経営し、わかりやすく、安くて便利な保険商品・サービスを提供する」というマニフェストに共感いただいているからだと考えています。良い商品・サービスを提供するのはもはや当然。これからは、“会社の姿勢”が問われる時代です。 まず「正直に経営」するために、これまで不透明だった保険料の内訳や約款をはじめ、情報公開の徹底を心掛けています。
そして保険商品はできるだけシンプルに「わかりやすく」設計。『就業不能保険』のように時代のニーズに合わせた商品もポイントです。20世紀のお客様は世帯主が多かったのに対して、現在は独身の方が多い。高額な保険料がかかる死亡保障より、万一自分が働けなくなった場合の『就業不能保険』こそが求められているからです。
それから、大手生保の半額程度という「安い」保険料を可能にしたのが、インターネット販売という形態。「便利」なだけでなく、保険料の半分以上を占める、保険会社の手数料・付加保険料の大幅カットを実現しました。
そのほか、平日の電話受付を夜10時まで、株主総会は異例の日曜開催にするなど働く人たちのことを考えたサービスに取り組んでいます。
ただ、こうした会社の姿勢も知っていただかなければ意味がありません。わかりやすいウェブサイトづくりや、全国一斉放送をせずに地域ごとの効果を検証したCM放送、副社長と二人で年間200〜300回の講演会を開催しているほか、TwitterとFacebookを通じて多くの方と直接接点を持つようにしています。
ダイバーシティがエネルギーの源
ライフネット生命を支えているのは、ダイバーシティの考えから学歴フリー、年齢フリー、国籍フリーで集まった社員です。ほとんどが中途採用で、スペックさえあれば性別や年齢、国籍、学歴は問いません。年齢層は広く、20〜60代の社員が一緒に働いています。また、ライフネット生命には女性役員が一人いますが、彼女は日本の生命保険会社で唯一の女性の常勤取締役です。
日本の多くの企業は同質的で、同じような年齢や学歴の人間が集まっていますが、これでは同じようなアイデアしか生まれません。ライフネット生命のお客様を年齢別に見ると、一番多いのが20〜30代。若者や女性がいなくてお客様の視点をとらえられるでしょうか。一人ひとりが異なるからこそ、既存の考えにとらわれないチャレンジができ、新しいアイデアが生まれるもの。彼らこそ、ライフネット生命のエネルギーの源です。
そんな中で、社長の仕事は2つだけだと思っています。このうち95%が、社員が朝起きて出勤するのが楽しみになるような環境をつくること。楽しく元気に明るく働くことが一番です。あとの5%は、みんなが「わからないこと」を判断すること。どのように判断するかと言えば、それは直感です。私は本、特に古典をたくさん読み、大勢の人と会い、あちこちを旅して多くのことをインプットしてきました。その経験が、直感を磨くことにつながっているかもしれません。
考えるプロセスを教え自立した人間を育てる
私たちが目指すのは100年続く企業であり、「大きくなって今の生命保険業界を変える」こと。100年後に会社のDNAを引き継ぐため、新卒採用も行っています。定義は30才未満とし、『考えるプロセスそのものを問う』“重い課題”を出します。例えば「大学を学生にとってより良い環境にするために1000万円の予算を与えられたとき、あなたならどのように使うか」など。数字とファクトで分析し、ロジックを組み立てる力があるかどうかが大切だからです。
これは国も教育も同じ。現在、日本が直面している課題は、少子高齢化や国家競争力の低下など、かつて世界が経験したことのないものばかりです。欧米に追いつこうとするキャッチアップの時代は終わり、自分で考え解決する時代が来ています。
「お腹を空かせた人に魚を与えてはいけない、道具を与えるのだ」と言いますが、まさにその通り。他人と同じことを考える子どもを育てても意味はないんです。考える力を持った、自立した人間を育てなければ、この国はダメになります。
現代と同じく社会が混迷していた幕末、吉田松陰が開いた松下村塾からは多くの偉人が輩出されています。塾という尊い仕事に携わる皆さんには、第2、第3の松下村塾をつくるんだという気概で頑張っていただきたいですね。 |
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