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競争原理社会における教育の課題と進むべき道とは |
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Profile
昭和13年、東京生まれ。
昭和36年、慶應義塾大学卒業。
同年、日本航空(株)入社。
以後、人事課長ハンブルク支店長、経営企画部長、大阪支店長、常務取締役、代表取締役副社長、顧問などを経て、平成14年(株)JALUX代表取締役社長、現職に至る。
(社)日本経済団体連合会、(社)日本経済同友会外など様々な役割も歴任。現在東京都「学校経営支援センター」顧問。
日本航空(JAL)で40年間のご活躍され、JALUX特別顧問であられる横山氏は、東京都学校経営支援センター顧問として、学校教育の改善にも取り組まれています。横山氏に、現在抱える教育の課題とこれからの進むべき道についてお伺いしました。 |
マクロな視点から見たバランス感覚の重要性を実感しておられる横山氏。「競争原理はある程度は必要。だが、程ほどであるべき」とおっしゃいます。教育環境が揺れ動いている現在、教育の本質をしっかりと認識し、これまで教育現場のもつプラス・マイナスの両方をバランスよく見つめ、塾としての立場から教育の方向性を見定めていくときだといえます。
日本航空での40年間
私は元々、日本航空(以下JAL)に40年在職していました。人事部門や運航部門、営業部門においては国内で大阪支店、海外はハンブルク支店の支店長を務め、残り15年くらいは経営企画部門を歴任しました。
経営企画室は、事業計画・収支計画を策定する部門で、また行政との折衝が日常的に行われる職場です。空港での発着枠を確保したり、国際航空交渉で得た権益からどうやって日本航空の営業枠を得るかという仕事が主な役割でした。
折衝の難しさ
経営企画室部長時代、行政との関係や外交交渉は観念的な議論だけでなく、いかに現場で右往左往するかという経験を事務的に行ってきました。そんな経験のひとつとして、まず挙げられるのが日本航空の民営化事務局長です。民営化後、積極的な事業運営の推進を図り、B747-400長距離大型機の導入を推進し、また当時の規制緩和の中で行政と一緒にエアライン同士の提携便を導入したのが仕事として思い出に残っています。
次に印象深いのは、90年の出来事です。当時のイラク政権に日本人が人質にされた事件がありました。それに対して外務省は「国の立場として、邦人保護のために日本航空が救援機を出すべきではないか」と議論になりました。人質にされた方が勤めていた商社は、「アメリカの言うこと聞くとさらに人質の身が危なくなる」と意見。飛行機の機長は安全性の問題を訴えました。
結果、当時の運輸省の方が、外務省と交渉していただき、そのうえで条件を提案されました。それを断るわけにもいかないので、救護特別便を運航した訳です。
私が日本航空に在職していた最後の4年間は、JASとの統合が一番大きな仕事でした。今や鉄鋼もセメントも金融も、どこでも集約しつつあるでしょう。これは、国際競争に打って出るうえで自然の原理です。競争にはプラスとマイナスの両方の効果があるので、それらをバランスよく考えた結果、統合に至りました。その区切りがついたところでJALUXの代表取締役社長に就任したのです。
JALUXは、JALグループにおける航空機や空港に関連した商品の流通機能を担っている会社です。JALグループ関連会社が上場するのは初めてで、前任の稲川社長が二部上場を実現され、私が社長に就任してから一部上場を果たしました。また、JASトレーディングとの統合も行いました。
教育に対する問題意識
今年の4月に経済同友会からの推薦を受け、東京都学校経営支援センターの経営支援顧問の仕事を担当することになりました。
学校の立場を考える専門の方がいるのに、学校現場のことを私自身がどれほど理解できるのか、という疑問もありました。当初、戸惑ったのですが「元々産業界にいた人の方がむしろいい」と言われ、引き受けることにしました。
学校へは、約25校行きました。高校に行くと経営企画室があるんです。そもそも学校教育現場は、学校教育の組織運営と教科の指導の教育そのもの。ですが、経営企画室という名称は、組織運営が優先しているような感じがします。個々の教員の中には、先生を束ねていくのを得意とする方もいらっしゃいます。一方で、教科の専門の教員としての役割をやり遂げたいと思う人もいるでしょう。
そのような、教育指導技術を高めることに専念する先生を離反させてはいけないと思います。
学校との交流
経営支援顧問とは別に、経済同友会では、「企業経営者と学校現場交流会」という活動があり、私も6年前からその会員になっていますが、交流会では、中学校へ行って生徒たちの前で話をします。子供たちにも分かりやすいテーマとして、イソップ物語の「アリとキリギリス」を題材にして話をします。
日本でも有名なこの物語は、アメリカの小学校低学年の教科書にも載っています。日本においては、努力家で用意周到なアリさんの優しさに着眼点が置かれていますが、アメリカの教科書には、最後のくだりにもう一行加わっています。アリさんが改心したキリギリスに「ちょっと休んでお茶でも飲んでいかない?」と訪ねると、キリギリスは「今オレは忙しくてお茶なんか飲んでるヒマはないんだ」と言う。アメリカは反省できる強い子になりなさい、という点に着目しているんですよ。
一方の日本は、優しい集団の中での一員になって欲しいと教えている。この他にも、日本の低学年の教科書を調べると、教科書に出ているストーリーは、優しい親子関係とか優しい兄弟関係ばかり。
アメリカはむしろそれが少なくて、強い子になれって言うのが多い。これは日米の教育観の大きな違いですね。もちろん両方必要なんだとは思いますが…。
これからの教育に望むこと
日本の教育は、様々な課題が山積みですが、学校の授業参観をさせていただいて、教育指導技術そのものは上がっていると思いました。
昔の英語の先生は、英語に関しては得意でも英会話のできない人が、たくさんいましたが、今の英語の先生は、海外留学などを経験されている方も多く、授業の中で、自然に英語で話されていました。
受験入試型の学校では、数学、日本史の授業も、指導技術が上がったと思います。塾の先生のノウハウを、身につけているように思いましたね。高校一年の因数分解の説明で、全体の原理原則を、実にしっかり教えていました。塾では、基盤をしっかりやっていると想像していたのですが、学校でもそれに近いような教え方をしていました。
世間一般的な考え方として、いい高校に行って、いい大学に入って、いい会社に勤めるという部分は変わらないと思います。だからこそ、指導技術はもっと上げて欲しいという気はします。
また学校側から、産業に貢献できる人材を育てる取り組みが、あってもいいのではないかと思います。これからはベンチャー企業よりも、在来の物作り的なものの指導役として海外で活躍できます。現にアジアの発展途上国では、技術指導者が求められていて、主にNPOがその役割を担っているようです。そういう意味で、農業水産高校・工業高校などに、指導技術を教える人を配置して「こういう分野で役に立つ人材を送ります」という形になっても、いいのではないでしょうか。
そのためにも、基礎学力と社会規範は、義務教育のレベルで身に付けるべきだと思います。そしてこの役割、特に社会規範は、学校より家庭が担うべきだと強く感じています。それに遅れている人は、高等学校に入れないというぐらい厳しくした方がいいと思います。
関塾さんでも、全体のバランスを考えながら、規範をしっかり教えていただき、社会に役立つ人材を育てていただきたいと思います。
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