関塾ひらく「インタビュー」 各界で活躍する著名人に教育や経営をテーマとしたお話を伺いました。
産経新聞社 専務取締役 大阪代表 齋藤 勉氏
ぶれない座標軸を胸に 大局的に世界をとらえる視点を
 

産経新聞社専務取締役大阪代表齋藤勉さんに聞くProfile 11976年神奈川県生まれ。早稲田大学を卒業後、住友商事、博報堂などを経て、2007年にDeNAに入社。執行役員マーケティングコミュニケーション室長から、NTTドコモとDeNAとの合弁会社の社長を務めた。2011年11月に、横浜DeNAベイスターズの初代・代表取締役社長に就任。12球団最年少の球団社長でありながら、多彩なマーケティングを実施し、数々のユニークな企画を創出。5年間で売上を倍増させ、25億円あった赤字を解消。2016年10月に退任した。

「しがみつかない理由」 出版:ポプラ社/著者:池田 純
『たった一人の熱狂』増補完全版


昨年12月発売したばかりの新刊です 。私がなぜ順調に成長を続ける横浜DeNAベイスターズを去ったのか、仕事に対してどのような向き合い
方をしているのか、ノウハウや仕事論、経営哲学を具体的なエピソードとともに紹介しています。


株式会社ディー・エヌ・エーが球団買収をしてから5年。当初は赤字球団だった横浜DeNAベイスターズは、2016年に黒字化を達成しました。初代社長として舵取りを担い、経営を好転させたのが池田さんです。黒字化に向けて奔走してきた裏には「横浜の発展に貢献したい」という強い思いがありました。

■ 51%の確率で成功する自信があった

   2011年12月、横浜DeNAベイスターズの初代・代表取締役社長に就任しました。当時は赤字球団であったため不安はありましたが、経営再建をする自信はありました。その理由は、マーケットが大きいことです。地元の方との接点を数多くつくり、地域に愛される球団にできれば黒字化も叶う。51%の確率でうまくいくだろうと思いました。
 ただし、球団のビジネスのあり方を抜本的に見直す必要がありました。野球の人気は年々低下しつつあります。従来のように「野球の試合を観に来てもらう」だけでは利益を上げることは難しいのです。私が目指したのは、「野球をつまみに楽しい時間を過ごす場」へと球場を変革していくことでした。そのためには良いものは守りつつも、既存の概念にとらわれず革新的なことにも積極果敢に挑戦していかなくてはならない。そのような思いを込め、「継承と革新」という経営ビジョン掲げました。

■革新を肯定する “空気”をつくる

  最初に着手したのは「組織づくり」です。毎年、球団のスケジュールは概ね変わりません。キャンプ・オープン戦・シーズン・シーズンオフ、この流れに沿ってルーチンで仕事をした結果、利益が生まれていないのが実情でした。ですから、まずは仕事に対する社員の意識を変える必要があったのです。社員には「野球の既成概念を超えたい」と話し、当社のビジョンを訴えました。もちろん、人の意識は一朝一夕で変わるものではありません。私にできることは、ビジョンを繰り返し説明すること。そしてビジョンを体現することです。一例を挙げると、2016年に販売を開始した球団オリジナル醸造ビール。社内でプロジェクトチームを立ち上げ、約2年掛かりでビールを開発したところ、1年間で5億円の利益を生み出すことができました。こうした社内プロジェクトを次々に立ち上げ、成功体験を共有することで、ビジョンに共振してくれる仲間も増えていきます。この5年間で、革新的な取り組みを肯定する“空気”が生まれ、社員の意識も変わってきたと感じています。実際、社員からも社内の空気が変わったという声をもらいました。良い空気を循環させることで組織を活性化でき、挑戦と成果のサイクルが生まれるのです。


■ 経営に必要な情報は“現場”にある

  言うまでもなく、経営には“情報”が不可欠です。あらゆるデータに目を通すことはもちろん、私は積極的に現場に行くことを大切にしています。自分の目で球場やキャンプの現状、お客様を見て、社員の声を聞く。現場で得た情報があってこそ経営の指針を示し、的確な施策を講じることができます。塾の経営でも同じではないでしょうか。教え子の顔や指導の現場を自ら確認することで、経営のヒントを得ることができると思います。
 現場に出続けることで関係者との信頼関係も深まります。何度も現場に足を運ぶうちに、チームのコーチミーティングに参加させていただけるようになりました。私からプレーや戦略について意見を述べることはありません。経営の視点から、選手により良いプレーをしてもらうためにできることを提案しました。「餅は餅屋」と言いますよね。選手やコーチはプレーで、私は経営面で。互いへの尊敬の念を持って協力を図りつつ、それぞれが自分にしかできない役割を果たすことが組織で成果を上げるうえでは重要だと考えています。

■ 社会的な意義がある ビジネスは利益を生む

  5年間で私が特に力を注いだことの一つが、球団と横浜スタジアムとの一体経営の実現です。理由は大きく三つありました。@自分たちのお客様に対して、ハードとソフトの両面で最高のファンサービスを自ら提供するため。A全試合満員にしても赤字という状況を改善し、黒字経営を実現するため。B経営基盤・財政基盤を整えることで選手のために投資し、安定した強いチームをつくるため。一体経営を実現し、これらの三つを推し進めることで、「横浜の元気の源」になりたかったのです。人々が心を一つにして応援できる球団になることで、地域経済が活性化し、横浜の人々を笑顔にしたいと考えていました。ですから、ファンや関係者、地域の方々に不信感を買うようなことは絶対に避けたかった。時が来るのを待ちつつ、様々な施策を実施し、地域の皆さんとの接点づくりに奔走しました。次第に、観客動員数は増加し、ホームゲームは連日満員に。2011年には55億円だった売上高は、2015年には93億円になりました。横浜の街の空気も変わりました。チームのユニフォームを着たり、グッズを身につけたりしている方を街中で数多く見かけます。横浜経済界の方々にも私たちを信頼していただけるようになったのでしょう。「そろそろ一体経営をしてはどうか?」と背中を押していただけるまでになりました。そして満を持して2016年1月、友好的TOBによって球団と球場の一体経営を実現しました。
 振り返ってみると、横浜の方々からご支持いただけたのは、私たちに“大義”があったからだと思います。つまり、横浜の発展のために、球団である私たちだからこそ貢献できることを示した。その実現に向かって行動し続けてきたことが評価され、企業の存在価値を認めていただけたということです。結果として黒字化を実現することもできました。「社会的な意義があれば自ずと利益はついてくる」。横浜DeNAベイスターズの経営を通じて、改めて強く実感しました。

■ 自分の好きなことを伸ばせる教育を

   今でこそ経営という仕事にやりがいを感じていますが、実は幼いころは水泳の選手を夢見ていました。幼稚園児のころから続け、中学3年生のときにはジュニアオリンピックに出場しました。ところが、高校で怪我をしてしまったのです。以来、記録が伸びなくなり、水泳をやめました。新しい目標を考えたときに、漠然と頭に浮かんだのが経営者でした。大学では留学して経営学を学び、実際に企業の経営に携わるようになったのは28歳のときです。今となっては、もっと早く経営者という選択肢を知り、勉強を重ねていればと思っています。
 もし私が塾を経営するならば、子どもたちが自分の好きなことが見つかる教育をしたいです。塾の社会的意義は、日本の次代を担う人材の育成だと思います。これからは一人ひとりが好きなことを突き詰める、スペシャリストの時代になります。教育においても、子どもに将来の選択肢を示し、目標の達成に必要な能力を伸ばすことが一層大切になってくるのではないでしょうか。



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